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「Crémet d’Anjou ;クレメ・ダンジュー」 その② 色々な名前とルセット

Crémet ;クレメ」の名前はcrème ;クレーム(生クリーム)、或いはcrémer ;クレメ(生クリームを加えるという動詞)に由来します。
* 名前を調べると他にCrémet の他にCrêmet 、Crémé と言うスペルもみられる。

かつてアンジュー地方では特にAngers;アンジェやSaumur;ソミュール周辺で多く作られていたそうで、名称は「Crémet d’Anjou ;クレメ・ダンジュー」の他、町の名前を冠した「Crémet d’Angers ;クレメ・ダンジェ」や「Crémet de Saumur ;クレメ・ドゥ・ソミュール」という名前も見られました。
* 例えば20世紀前半に出版された古い有名なガイドブックを見ると、このように書かれている。
◎「Guide UNA(1931年)」では「Angers ; アンジェとSaumur ; ソミュールのスペシャリテ」としてクレメを紹介。
◎フランス各地のスペシャリテを紹介する「Trésor gastronomique de France(1933年)Curnonsky,Austin de CROZE共著」の中では「Crémets d’Angers;クレメ・ダンジェ」の名前で掲載。
Larousse gastronomique de Prosper Montagné( 1938年) の中では「Crémets d’Angers ou de Saumur」と記載。


この他にMaine-et-Loire県の隣県Loire-Atelantique ;ロワール・アトランティック県の中心地Nantes ;ナント近郊でも作られており、その名も「Crémet nantais ;クレメ・ナンテ(或いはCrémet de Nantes ;クレメ・ドゥ・ナント)」。ここでも20世紀初めには既に有名でした。
* 1984年に出版されたフロマージュの本「Le Livre d’Or du Fromage,Pierre Androuet著」の中にはCrémet d’AnjouとCrémet nantaisの2つが掲載されており、「Crémet nantais ;クレメ・ナンテ」は温めた牛乳にレンネットを加えて固めたものを穴のあいた型に入れて水気を切って作る方法が紹介されている。
* 現在「Crémet nantais ;クレメ・ナンテ」と言う名前で販売されているものは、材料に生クリームと卵白の他に
フロマージュ・ブランが入っている。

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↑ こちらが実際に買ったクレメ・ナンテ

現在、一般的に「クレメ・ダンジュー」と「クレメ・ダンジェ」の違いはフロマージュ・ブランが入るかどうかで、
前者には入らないとされています。
しかし、これらに違いは無いと言うもの、「クレメ・ダンジュー以外はフロマージュ・ブランを使うという違いがある」と
書かれているものも存在してちょっとややこしい。
実際にルセットを集めてみると材料も作り方も様々で決まっていないようにさえ感じるほど…。


では、アンジェの古文書に初めて記載された当時の「フロマージュ・ドゥ・クレーム」や「クレメ」はどんなものだったのでしょう?
探してみると「Nouvelle Instruction pour les confitures,les liqueurs et les fruits,François Massialot 著」の1740年度版の中に「Fromage de Crême(P-285)」のルセットを見つけることが出来ました!
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作り方はこんな感じ…。
生クリームに牛乳を加えて熱し、指を入れられる温度まで冷ましてから牛乳を少し加えたレンネットを加え、
布か目の細かい裏漉しで漉す。蓋をして固まるまで置く。柳で出来た小さなカゴ、或いはブリキの型に
スプーンで入れ、水気を切る。器に盛り付け、上から砂糖を加えた生クリームをかける。


これは現在でいうとクレメというよりむしろフレッシュチーズ(フェッセル)の感覚ですね。
* François Massialot;フランソワ・マシアロ(1660-1733) 数多くの宮廷でシェフ・キュイジニエを務め、数冊の料理書を残している。クレーム・パティシエール(スペルはCrême pâticiere)やクレーム・ブリュレ(Crême brûlée)の
ルセットの初出は彼の著書「Le Cuisinier roial et bourgeois(1691)」。


この本のもっと古い版を探すと1712年度版が見つかりました。
この中に「Fromage de Crême」は無かったのですが「Crême en neige ;クレーム・アン・ネージュ」というものを発見!
1 pinte(1パント;昔の液量単位)の新しい生クリームと新鮮な卵白2つをオレンジ花水で香り付けして
泡立てる。表面に泡が上ってきたらすくって別の容器に移す。全てが泡立つまで繰り返す。砂糖を加えて溶けるまで泡立て、ガーゼか目の細かい布を敷いた小さなカゴに入れ、水気を切る。

こちらの方が現在のクレメにより近いような気がしました^^

両方の本には生クリームや牛乳と卵、砂糖を使って(いわゆるチーズは使わずに)作られた「Fromage」と分類されるものがいくつか紹介されており、この当時は同様のものが広く作られていたことを想像させます。


では次に形はどんなものだったのでしょうか?
ナントで使われる言葉(言い回し)について解説する「Les Locutions nantaises(1884年)Paul Eudel著」では、
クレメを「柳製の小さなカゴに入れて作られた半円形の乳製品」と説明しています。
また、円筒形のブリキ製型もあったようです。

また「Souvenirs d’un vieux Nantais,1808-1888(1888年)Léon Brunschwicg著」には
柳製の小さなピラミッド形(のカゴ)を使う」とあり、様々な形があったことが分かります。

20世紀初期には「その①」で紹介したような陶器製で水切り穴の付いたハート形の型が出てきます。
そしてこのハート形が作られる前は円錐台形だったのだとか。
こちらにはその型の写真が紹介されていて、偶然にも私が持っているのと同じ!
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それにしてもいったい誰がこれらの形にすることを思いついたのでしょう?
家庭では家にあったものを転用したのかもしれませんがお店ではどうだったのか?
Marie Renéaume ;マリー・ルネオムの店ではどんな形で販売されていたのでしょうね。とても気になります。
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本やネットでルセットを集めていくと、本来の生クリームと卵白と言うシンプルな物の他にも様々なものがあるのが分かります。
 ①泡立てた生クリーム(クレーム・エペッス+クレーム・フルーレットのことも有)と泡立てた卵白を混ぜる。
 ②フロマージュ・ブランに泡立てた生クリームと泡立てた卵白を混ぜる。
 ③生クリーム(クレーム・エペッス+クレーム・フルーレットのことも有)にレンネットを加えながら泡立てる。
 ④カイエ(牛乳にレンネットを加え、固めたもの)を水切りし、クレーム・エペッスとクレーム・フルーレット、
   バニラシュガー、泡立てた卵白を加える。
 ⑤牛乳を30℃に温めレンネットを加える。(Crémet nantais ;クレメ・ナンテ)


これらすべて試してみましたが、③は思ったように泡立たず、1度は泡立て過ぎてバターになりかけてしまいました。
* ちなみにアンジュー地方で使われる俚言や言い回しについて語彙集 「Glossaire étymologique et historique des patois et des parlers de l'Anjou(1908年)Verrier et Onillon共著」の中で、クレメは「バラットの中でバターに変わる寸前の生クリームで作った乳製品」と説明されている。

経済的な理由(高価な生クリームの量を減らす為 ?)からか、Caillé ;カイエやfromage blanc ;フロマージュ・ブラン等を加えるようになっていったとも言います。
ルセットは各自で秘密にされいたため作り方も様々になり、また恐らく家庭では手に入るものを使い工夫して作っていた為、材料にもバリエーションが出来たのかもしれませんね。
(いずれの作り方でもそれぞれに美味しいクレメが出来ました♪)



※※※



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by Ethno-PATISSERIE | 2014-08-07 19:29 | ⑱Pays de la Loire | Trackback | Comments(2)
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Commented by M at 2014-08-07 20:15 x
クレメ・ダンジューとは、色々な地名が付いたクレメもあり、フロマージュ・ブランが入った物とは、区別されているんですね。
その①を読むまでは、フロマージュ・ブランも入ってクレメ・ダンジューと言うのかと思っていました。
クレメ・ナンテもあるんですね。
ルセットもたくさんありますね。全部、美味しくできたんですね。
食べてみたくなりました!
Commented by Ethno-PATISSERIE at 2014-08-08 09:08
Mさん 日本では初めにフロマージュ入りで紹介されたので、それが定着したのでしょうね。それにチーズケーキが好まれる日本でフロマージュ無しだったら美味しそうなイメージが湧かなかったかも^^?(ただのホイップクリーム?としかイメージ出来ませんよね、きっと)
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