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「紹介するに値する『パリで最も古いパティスリー』」は何処に?

流行りのお菓子を食べ歩くよりも「フランス菓子の歴史」に惹かれる者にとって、
実際フランスの地を訪れて一番ワクワクするのは、その歴史を身近に感じられること。

パリで本物の地方菓子・行事菓子を見つけるのは難しいけれど、古典菓子が多く作られているのはやっぱりこの街。
訪れる価値は大いにあります。
古い建物も残っており昔の雰囲気も所々に感じられて、当時活躍したパティシエたちにゆかりある地を訪ね
ゆっくりと古地図散歩するにはとても楽しいところなのです♪

パリで最も古いパティスリー』と言えばやはり「Stohrer ;ストレール(*)」。
公式サイトにも「La plus ancienne pâtisserie de Paris(パリで最も古いパティスリー)」とありますしね。
創業時から現在まで同じ場所でパティスリーを続けているという意味では間違いないでしょう。
(*)Stohrer ;ストレール ;Nicolas Stohrer ;ニコラ・ストレールにより51 de la rue Montorgueil (モントルグイユ通り51番地)で1730年創業。現在の建物は18世紀末のもの。

パティスリー以外でもずっと同じ場所にあるお店といえば、他にも
現在レストラン・サロンドテとなっている202 rue Saint Honoréの「Ragueneau ;ラグノー」。
*当時cabaret(居酒屋・小料理屋の類)であった両親の店をCyprien Ragueneau ;シプリアン・ラグノー(1608~1654)が後を継いだのは1640年頃のこと。

そして、現存するパリ最古のCafé ;カフェ(Glacierでもあった)で13 rue de l'Ancienne-Comédie(かつての通り名はrue des Fossés-Saint-Germain)にある「Le Procope ;プロコプ」。
*シシリア島パレルモ出身のFrancesco Procopio dei Coltelli((1651~1727 ;フランス名;François Procope-Couteaux)により1686年創業。
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等々、いくつか思い浮かびます^^


さて Maglonne Toussaint-Samat ;マグロンヌ・トゥーサン=サマ著
La Très Belle et Très exquise historique des Gâteaux et de friandises(お菓子の歴史)
には「紹介するに値する『パリで最も古いパティスリー』」として
…fondée en 1669, rue du Mont Saint-Hilaire, par un certain Dugast…
…1669年にデュガという人物がモン・サン・ティレール通りに開業した店…

が紹介されています。

この店のスペシャリテは『Têtes de veau farcies;テット・ド・ヴォー・ファルシ』。
グリモ・ド・ラ・レニエールによる「Almanach des Gourmands(美食年鑑) 1803~1812」(*)等でも称賛されるほど有名でした。(この時期の所有者はCauchois氏)
(*)「Almanach des Gourmands(美食年鑑) 1803~1812」は、弁護士で有名な美食家でもある
Alexandre-Balthazar-Laurent Grimod de La Reynière ;アレクサンドル=バルタザール=ローラン・グリモ・
ドゥ・ラ・レニエール(1758-1837)により出版され、フランスで最初の料理評論書&ガイドブックとされる本。
パティスリーも住所やスペシャリテと共に紹介されている。


第一帝政(*)の頃には「この店のテット・ド・ヴォー無しの晩餐会はあり得ない」と言われるほどだったと言います。
注文もかなり多く、パリ市内に熱々のものが届けられていたとか。
(*)フランス皇帝ナポレオン1世の軍事独裁政権。
1804-5-18~1814-4-14及び1815-3-20~1815-7-7までの期間。



ではこのお店、一体どこにあったのでしょう?
rue du Mont Saint-Hilaire(モン・サン・ティレール通り)は、
パリ5区にある現在のrue de Lanneau(ラノー通り)にあたります。
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↑Lanneau通りの看板

この店について古書で調べてみると、モン・サン・ティレール通り16番地にあり、近くにあった井戸の名前から
Au Puits Certain ;オ・ピュイ・セルタン」という店名だったことが判明。
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↑白抜きの赤い矢印の先にあるのが井戸「Puits Certain」
パティスリーがあったのはおそらく赤い矢印の先にある角の建物
*「Plan de Mérian(1615)」一部

モン・サン・ティレール通りは1880年、rue Fromentalと合併しrue de Lanneauとなりましたが、1890年の本に
Pâtissier-cuisinier Villez-Bonouard rue de Lanneau 16
とあるのを発見。
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↑この写真の手前左側辺りに店があった?

現在16番地にある建物は20世紀中頃に建てられたものですが、
1185年頃創設されたパリでもかなり古いこの通りには古い建物が残され、お店のあった当時を想像するには
十分な雰囲気があります。

向かい側 11番地にある「Restaurant le Coupe Chou ;クープ・シュー」地下にあるカーヴには、
かつてあった井戸「Puits Certain ;オ・ピュイ・セルタン(*)」の基礎部分が残されているそうで…(見に行きたい♪)。
(*)この井戸は1572年、Eglise Saint Hilaireサン・ティレール教会の司祭、次いでコレージュ・サント・バルブの校長
となったRobert Certain ;ロベール・セルタンにより掘られ、その後18世紀初めに埋められたが、
1894年下水道工事中に発見されている。

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↑「Coupe Chou」の入口


ちなみに分かっている代々の所有者たちを整理してみるとこんな感じでした。
(全てを網羅することはなかなかに難しい…><)
Dugast氏 ;1669年(1625/1630年?)~?年 
Varin氏 ; 所有時期不明
Fromont氏 ; 所有時期不明
Cauchois氏 ;1790~1810年 
Vachette氏 ;1810~1824年頃? 
Seignier氏 ;1838年前後 
Banouard氏1847年頃~1864年(/1880年頃?) 
Villez-Banouard氏 ;1890年頃~1897年4月

1897年5月に Villez氏は店を同じ5区にある40bis rue Saint-Jacquesへ移転。
ラノー通り16番地の店はパティスリーではなく酒屋に変わっていました。
* ほとんどの場合「1669年創業」とされるが「Collines et buttes parisiennes」Henri Bachelin著(1944)には『1625年~1630年に開店』とある。

たまたま「Bulletin de la Montagne Ste.Geneviève et ses abords」Jules Périn著(1896年)の中で見つけたCauchois;コショワ氏の後継者、Vachette氏のショップカードの複製。
こういうの、なんだかとってもワクワクな気分になります~♪
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* Villez-Banouard氏が所有していた銅板を用いて複製された


さてお次はどこへ行こうかな^^




                      ※※※




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Commented by M at 2016-08-14 12:34 x
パリで最も古いパティスリーを調べられたのですね!
おっ、もしかして、今、パリに居るのですか?
古い通りの名前やこの魅力的なパリの古地図が観ていて、
楽しいですね!ワクワクします!
このクープ・シューに行ってみたいです!井戸の跡も見たいですよね。
こう言うパリ歩きもいいですね。フランスへ行きたくなりました!
Commented by Ethno-PATISSERIE at 2016-08-15 08:50
Mさん
残念ながら今パリにいるというわけではありません^^
この古地図、建物が立体的に描かれていて当時の街並みが分かりやすいですよね。
お菓子屋さん自体はもっと古くからあるのですが、店が長く続いた有名店ではここがパリで最も古いと言えるのだと思います。当時の店内はどんな感じだったのでしょうね~♪覗いてみたい!
by Ethno-PATISSERIE | 2016-08-14 10:23 | ⑫Paris/Ile-de-France | Trackback | Comments(2)

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